レポート

立山黒部世界ブランド化プロジェクトを追う② 山で生きる男たちから待ったの声−阿曽原温泉小屋・佐々木泉さんが意見書を提出

2017年6月1日、東京にて第1回 「立山黒部」世界ブランド化推進会議 が開かれた翌月22日、構想を検討するブランド化推進会議の委員19人に対し「安全対策をまず考えるべき」と阿曽原温泉小屋の主人、佐々木泉さんが県内外の山…

Written by PORTALFIELD浜崎
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2017年6月1日、東京にて第1回 「立山黒部」世界ブランド化推進会議 が開かれた翌月22日、構想を検討するブランド化推進会議の委員19人に対し「安全対策をまず考えるべき」と阿曽原温泉小屋の主人、佐々木泉さんが県内外の山岳関係者や現場の人たちから集めた声をまとめた意見書を提出します。

この意見書を提出した佐々木泉さんは、かつて13年間、県警山岳警備隊員として数多くの遭難救助にあたり、現在も県登山指導員、県警山岳警備協力隊長などを務めている方です。

多くの登山者の安全確保に努め、四季を通じ立山黒部で厳しい自然と向き合いながら、遭難救助・登山道整備・山岳地帯での災害復旧等の業務を現場に出て行っている、まさに山に生きる現場の人。

意見書の概要は以下のようなものです。

「立山黒部」世界ブランド化 推進会議委員の皆様

「立山・黒部」世界ブランド化についての意見書 安全対策有っての観光! 立山黒部の特徴を十分考慮した観光戦略を!

1. 黒部アルペンルートについて
(1)冬季間のアルペンルートの気象条件は検証されているのか?
(2)期間延長すれば雪崩の危険が増大
(3)扇沢(長野県側)からの冬期利用についても雪崩の懸念がある!
(4)極寒の寒冷地に、はたして一般観光客は楽しめるのであろうか?
(5)乗り物のない区間は大丈夫か?
(6)登山者・スキーヤー・スノーボーダー等への対応は?
(7)ロープウェイについて
(8)救助に当たる山岳警備隊の体制をどうするのか?

2. 黒部峡谷鉄道について
黒部峡谷鉄道の開業準備作業・災害復旧等に関わった経験から運行期間を延ばせないか?との提案について意見

3. 関電・黒部ルートについて
(1)安全確保についての議論は?(黒部は生きている!)
(2)このまま利用してもいいのか?
(3)何より心配なのは!

「この区間の、利用代金は徴収しない代わりに安全対策は行わない!」 と取れるような運用方法に、現場を知るものとして強く違和感を覚えます。 高熱帯を通る訳だし、大部分が素掘りの露岩のトンネルなのに、万一事故が発生した場合、危険の認識は無かったと言い切れるのでしょうか?(そもそも、安全なルートに改修出来るのだろうか?」

4. これからに向けて

立山・黒部は大切な観光資源なのは言うまでもありません。 しかし、圧倒的な積雪量を始め「立山・黒部」なればこその「他とは違う厳しさ」も持っていることを忘れてはなりません。

利用促進等は、拙速に結論を出さなくとも、専門家や現場の生の声を取り入れて十分な議論を重ねるべきではないでしょうか。

安全に不安がある中で利用して、事故が起きた場合は「想定外」と言い訳は出来るはずもありません。ましてや、検討委員が事故発生時に責を負うとも思えず、運行事業者に責任を負わされるとすれば、事業者が及び腰になるのも当然です。

長期的な視点に立って、計画を策定してゆくことは大切なことです。 しかし、今やらなければならない事も沢山あるのではないでしょうか?

繁忙期のアルペンルート各駅の混雑緩和対策は喫緊の課題です。本年春の美女平で、立山ケーブルの待ち時間が長過ぎて、付近を散策するうちに転落事故が発生してしまいました。

昨年のシルバーウイークには、室堂からの下山バス待ち行列が高原バス乗り場から一階フロアを九十九折れに並んだ列が、階段を3階から屋上にまで伸びて、更にはみくりが池方面遊歩道にまで続いたと、にわかには信じられない状態だったと聞いております。

今ある観光資源の、整備や磨き込みを行って出来ることが有るはずです。

私も世界中の方々に、素晴らしい「立山・黒部」で感動して頂きたいのは同じです。その思いがあるからこそ、今まで山岳救助に携わって来ました。

「山で事故が起こってもらいたくない」との思いで作った本意見書が、今後の議論に活かされることを切に願います。

この意見書に続き、佐々木さんは新たに

「関電黒部ルートの利用方法についての私見」を発表します。

概要は以下の通り。

関電黒部ルートの利用方法についての私見

1. 安全対策
・安全対策は最重要事項。
・商品化と銘打って解放するのであれば、当然国の安全基準に沿った対策を行ってから利用するのが筋。→莫大な費用はどうするのでしょうか?
・高熱帯を走らせるリスク→地質の専門家の本格的な調査は今までに行われたのだろうか?
・素掘りで露岩のトンネル→雨が続くと、素掘りの岩の割れ目からの湧水量がかなり増える事実。
・避難路の確保は?→万が一車両火災等トラブルが有っても、外に出る事が出来る場所が少なくないか?

交通機関を整備して山岳地帯へ色々な人(登山者やスキーヤー以外の観光客)を送り込むのであれば、安全対策を整えるのが当たり前ではないか?

2. 利用料金
・今まで通りの公募の様な利用形態にして、利用者から運賃を取らずに運行する様な事が伝わってきたが、利用料金を徴収して安全対策・運営費用に充てるのが筋。その場合、はたして、ほとんどがトンネルで真っ暗な中を一万円払ってまで観光客が来てくれるのか?現在のアルペンルートの日本人客の減少は、運賃が高すぎるとの意見が有る。

3. そもそも富山の為になるの?
午前中、朝一番の黒部ルートの列車に乗車するには、始発の宇奈月・扇沢の時間が早くなりますが、観光客がそれほど早く動き出すのか?もっと費用を掛けずに集客できる術は有るのではないでしょうか。

4.国との約束と言うけれども
ダム工事が終了した時点での契約は有るとはいえ、契約時の世論と現在のご時世が全く違っている。当時では想像も付かない位の権利意識の高まりと対策費用の高騰は大きな問題ではないでしょうか?まず安全確保が最優先されなければならないのでは?

「絶対に開放はダメとは言いません」

しかし冷静に考えてみれば莫大な費用を掛けても、安全に不安が残って、集客もそれほどの効果が見込めないのであれば、考え直す余地や他のアイデアも出てくるのではないでしょうか?ここは立ち止まって、再検証や費用負担を含めた試算等をしてみてはどうかと思います。 このまま強引に進んでは、後悔する日が必ずやって来ると考えます。

2019年5月12日に秋葉原で行われた「山小屋サミット」に、PORTALFIELD編集部も足を運び、佐々木さんが提出された「意見書」と一連のプロジェクトについてお話しすることができました。

その際に佐々木さんが、

「『立山・黒部』世界ブランド化についての意見書を提出した二年前の夏は、災害で小屋の営業をすることが出来るようになったのが9月16日で。もし普通に7月から営業出来ていたら、この意見書を作成する時間的余裕はなかったかもしれない。『不思議な巡り合わせ』の様なものを感じるよ」

「今回、こういった現場の意見を無視した形でプロジェクトが進行すれば、富士山など他の国立公園に波及するのは必至。立山だけの問題ではないんですよ」

とおっしゃっていたのが実に印象的でした。

佐々木さんが「立山黒部世界ブランド化」構想を検討するブランド化推進会議の委員19人に対し提出した意見書、関電黒部ルートの利用方法についての私見は阿曽原温泉小屋のホームページトップから読むことができます。

「立山・黒部」世界ブランド化についての意見書 安全対策有っての観光!立山黒部の特徴を十分考慮した観光戦略を!

関電黒部ルートの利用方法についての私見

是非、この機会に目を通してみてください。