登山を楽しむ皆さんが増えてきた中で、山岳保険という保険があるのを耳にした方も多いのではないでしょうか。
山岳保険というのは、ごく簡単に言うと、登山中に万が一遭難した時に利用できる保険です。
「遭難した際に利用できるタイプ」を中心として、一般的な損害保険のように「他人に怪我をさせたりした場合にも利用できるタイプ」など、様々な種類のものが各社から提供されています。
ここでは、山岳保険の中でも必須の項目となる「遭難した際に利用できるタイプ」のものについて、おすすめの山岳保険なども紹介しながら、そもそも山岳保険ってどうして必要なのか考えてみたいと思います。
登山中に怪我をしたり病気になったりするなどのトラブルが発生し、それ以上登山や山行を続けることができなくなることは誰にでも起こりうるリスクの一つです。遭難と聞くと、険しい岩場などから滑落したなどのイメージが浮かびやすいですが、遭難救助にあたっている方から以前聞いた話で分かりやすかったのは、
「自力で下山ができなくなったら、それはもう遭難だよ」
と。なるほどなと。
自力で下山できなくなった以上、誰かに救助に来てもらう必要が出てくるわけですが、遭難した時にかかる費用はその状況や季節により千差万別です。
遭難救助や捜索にかかる費用として、大きく分けると、
・ヘリコプターの出動費用
・捜索する人(地元の遭難対策協議会(遭対協)の隊員など)への日当、食費、保険料としての費用
・上記以外の捜索する人(所属の山岳会や友人など)への交通費、食費、消耗品などの費用
・上記捜索隊がどこかに滞在する必要がある場合の滞在費用(宿泊費など)
・捜索隊のうち、日当などの支払いがなかった人への謝礼費
・親族などが現場へ行くにあたっての費用(交通費、宿泊費)
・遺体運搬費
このあたりが遭難捜索費用についての代表的な費用になります。
これらは山や救助現場の状況、救助方法によっても大きく変わりますが、いくつかの例を挙げて、どの位の費用がかかるのか考えてみます。各費用は定額ではなくあくまで概算です。
1. ヘリコプターが出動せず、1日で救助が完了するケース
その場合は救助に当たる人へ支払う費用がメインとなります。
1人あたり1日2万円〜5万円とざっくりとした計算を前提にした場合、動けなくなった人を下山させるには背負うなりなんなりしないといけませんので、当然1人で救助が完了するわけにはいきません。
仮に3〜4人の救助隊が必要となると、その人達への支払い分でアバウトに計算したとしても約20万円ほどとなります。実際には、他にも諸経費がかかってくる場合が多いわけで、そうなるとそれ以上の単位になる可能性が十分考えられます。
2. ヘリコプターが出動し、比較的短時間で救助が完了するケース
最近では遭難救助の主力としてヘリコプターが利用されるケースが多いですが、ヘリコプターが出動して1日で救助が完了する場合はどうでしょうか。
この場合は、ヘリコプターの出動費用がメインになります。
費用としては1時間あたり50万円ほどが相場です(民間の救助ヘリで最も有名であると言ってもいい東邦航空の場合、日本山岳救助合同会社によると1時間あたり46万5千円ほどとのこと。2019年7月現在)。
救助場所がはっきりしていて、ピンポイントでヘリコプターがその場所への往復で済むなど、捜索の必要のない場合は短時間で救助活動が終了することもあり、そうした場合は、この1時間あたり50万円をベースとした金額にかかった時間分をかけた金額が捜索費用のメインとなります。
ただし、救助のための人件費は基本的には必要なわけで、ヘリコプター代=救助費用とは必ずしもならないことには注意が必要です。
3. ヘリコプターが出動し、かつ地上からの救助隊が組まれて、数日間にわたる捜索と救助が行われるケース
この場合は、最初に挙げたほぼ全ての費用をベースとして、捜索日数分の費用がかかってきます。
まず、捜索隊4名で一日あたり20万円、ヘリコプターで毎日2時間捜索して100万円、それだけで120万円です。これが3日間行われた場合、その分だけで360万円と一気に高額になります。
他に、所属山岳会や遭対協の方以外の方への謝礼費などを始めとして、それら捜索や遭難対応に関わる全ての人の宿泊滞在費、交通費、諸経費等を考えると、一概には試算できないほどの費用がかかってきます。最悪のケースでは遺体運搬費もかかってきます。
何日間捜索活動をするかにもよりますが、数百万円から場合によってはそれ以上かかるケースもあることがお分かりになると思います。
いま挙げたような不測の事態に、金銭面で備えるのがいわゆる山岳保険です。
ここまでの説明だけでも、いかに山岳保険が有効で、かつ加入することがどうして重要なのかのイメージがつきましたね。
今回は「遭難した際に利用できるタイプ」についての山岳保険について話を進めていますが、保険でカバーできる範囲によっても種類があります。鍵となるのが登攀用具を使うかどうかで変わることが多いです。代表的な例として種類を分けると、
・夏山のトレッキングやハイキングなど、登攀用具(ピッケル、アイゼン、クライミング用具)を使わないもの。
・雪山登山など、ピッケル、アイゼンなどの登攀用具を利用したり、クライミング用具を利用するアクティビティなど。
となります。また、保険の支払い対象となるアクティビティによってもカバーできる保険は変わってきます。最近増えてきた、1日単位で手軽に保険加入できるタイプのものは登攀用具を使わないものだけを対象としたものが多い印象です。
さて、それらを踏まえた上で、それではどの山岳保険がおすすめなのか考えてみます。
各社から山岳保険は提供されていますが、おすすめしたいのは、「日本山岳救助合同会社」が提供する山岳遭難対策制度「日本山岳救助機構会員制度(略称:jRO(ジロー))」です。
おすすめする大きな理由の一つが、
万が一の費用の中でも高額になりやすい「遭難捜索費用」に対する保証が、比較的リーズナブルな保険料(jROでは「年会費+事後分担金」という概念)でカバーできることです。
「遭難捜索費用」に関して、そのうち金銭的な部分だけでも、
・山岳遭難捜索・救助費用カバレージ制度により、捜索・救助費用が550万円まで補てんされます。
・会員が遭難に遭遇し、会員が捜索・救助費用を負担する場合、その費用実費を1会員1会員期間あたり550万円を限度に補てんいたします。
(2019年7月現在)
この金額を聞いた時にそれが高いのか安いのかの判断が付きにくい方に補足すると、いわゆる一般的な損害保険(軽登山などをカバーする一部のタイプを除く)では、遭難捜索費用は支払われないことが大半です。その場合、家族や身内の遭難に突然数百万円以上の請求が来ることを考えてみて下さい。
皆さんもご存じの通り、損害保険でも生命保険でも掛け金を増やせば保証も大きくなりますが、実際に利用する可能性のある補償額と掛け金のバランスを考えるのは結構難しいことが多く、それが登山を中心としたアクティビティに限定されるとなれば尚更その判断に迷いがちです。
そのような中で、このjROが保証する(jROでは「補填」という概念)金額は、保険料と補償金額を考えた場合にバランスが良いものになっています。
先ほど、保険でカバーできる範囲の話をしましたが、jROはその点でも優れています。カバーされる内容はいわゆる一般的な登山だけでなく、下記のようなアクティビティにも適用されます。
登山、ハイキング、キャンピング、縦走、岩登り、アルパインクライミング、沢登り、雪山、アイスクライミング、トレイルランニング、フリークライミング、スポーツクライミング、ボルダリング、山スキー&スノーボード、キャニオニング、ケイビング、マウンテンバイク、山菜採り・茸狩り、渓流つり。(海外登山は除く)
いわゆるアウトドアアクティビティのほぼ全てと言っても過言ではありません。PORTALFIELDをご覧になってる方であれば、いずれかを楽しんでいる方が多いかと思います。
どうしてリーズナブルな保険料が可能なのか
jROの保険料(年会費+事後分担金)が低額で済む理由は、その年度に会員が遭難した際の支払保険金額(遭難捜索費用総額)を保険の全加入者(全会員)で割った金額を次年度に請求される方式(事後分担金方式)だからです。
事後分担金(カバレージ費用)方式では、実際に支払われた保険金額(補填額)のみを割って算出されているため責任準備金や予備金などが含まれず、そのため一般的な保険や共済などと比べてリーズナブルな保険料が実現されています。
また、ここで重要なのは、jROは保険ではなく、相互扶助の精神にもとづく会員制度だということです。
jROも一般的には山岳保険という概念の範疇に入れて認識されていることが多いですが、保険ではないので死亡した際の死亡見舞金はありません。ただ、これもリーズナブルな保険料を実現している大きな要素だと考えると納得のいくものだと思います。
ちなみに、私の前回の支払金額は年会費の2160円と事後分担金の300円、分担金の精算額-300円、合計2160円です(実際には家族分も支払っているので、実際の支払金額はこれより多いです。なお、家族会員は本会員よりさらに年会費が安いです)。遭難捜索費用が使われなければ事後分担金も安くなるという非常に合理的な仕組みです。
jROに加入することで得られるメリットは他にもいくつかあります。詳しくはjROのホームページで最新のものがご覧頂けるのでそちらもチェックしてみて下さい。(jROの会員特典ページはこちら)
山岳遭難で最近問題になっていること
ここまで、山岳保険ってどうして必要なのか、jROがなぜおすすめなのかについて説明しましたが、最後に山岳遭難の遭難救助で問題になっていることについてふれておきます。
ご存じの方もいるかと思いますが、ヘリコプターでの遭難救助は警察、消防、民間会社、自衛隊(大規模災害以外ではまず無いかと)によって行われていますが、通常最もよく聞くのが警察と消防のヘリによる救助です。
しかし両者とも捜索依頼をした際に別の用途に使われていれば出動できません。そのような際に登場するのが民間のヘリコプター会社です。国内で遭難救助にあたるヘリコプター会社としては「東邦航空」が特に有名です。
それら三者のうち、警察と消防のヘリコプターには救助費用がかからないことが多く(自治体によっては徴収するところもある)、民間のヘリコプターには当然費用がかかります。
ここからが問題点の核心になるんですが、いざヘリコプターによる救助となった際に「お金のかからない警察や消防のヘリでお願いしたい」という救助要請者が実際にいるということです。
緊急を要するから救助されるのであって、そのような場合に費用がかからないというだけでそのような指定をするというのは本末転倒も甚だしく、あまりにも自己中心的にすぎると思います。
そもそも、警察と消防のヘリコプターにしても費用はかかっています。その費用は税金でまかなわれているわけです。自分だって税金を払ってるんだ、というのはそれはそれでもっともな言い分ですが、生命の危険が迫っているなど一刻を争う状況下で救助が必要な場合に、お金と命のどちらが大事なのかはここで説明するまでもありません。
ただし、ここまでの話とは今度は全く正反対のケースで、山岳保険に加入していないために遭難捜索費用や救助費用のことを考えてしまい、緊急事態であっても救助要請を躊躇してしまうということは避けなければなりません。
登山や各種アウトドアアクティビティを楽しむ皆さんであれば、それらを思いっきり楽しむためにも、家族や周囲に迷惑をかけることを最小限にするためにも山岳保険は必須です。
様々な山岳保険がありますが、現在、加入を検討しているようでしたら、ぜひ参考になさって下さい。