登山をはじめ、活動的に動くアウトドアアクティビティでの服装は、春夏秋冬、一年を通して重ね着(レイヤード、レイヤリング)が基本というのはよく知られた話です。
その一方で、レイヤリングを意識したはずなのに、夏山でも標高や時間帯によっては小屋泊、テント泊を問わず寒い思いをしたことがある方も中にはいるのではないでしょうか。
低体温症などのリスクを下げるためにも必須となるアウトドアアクティビティでの防寒対策ですが、夏山よりさらに一段と気温が下がる秋、晩秋から冬、さらに厳冬期から残雪期に至るまでの季節など、寒冷時のアクティビティを楽しむにはより一層効率の良い技術が必要となってきます。
レイヤードシステムとは?
登山などのアウトドアにおけるウェアリングのテクニックとは、一言で言えば前述の通り、レイヤード、レイヤリングにあります。
山でどんな状況の時にどんなウェアをどのように着るかということ、つまりレイヤードシステムとは、それ自体が立派な登山技術と言えるでしょう。
レイヤードシステムのベースとなるのは、アンダーウェア(ベースレイヤー)、ミッドレイヤー(インナー)、アウター(シェル)。この3つの機能の組み合わせが基本となります。
それでは、それぞれのレイヤーや機能でおすすめ素材の選び方などを見ていきましょう。
アンダーウェア(ベースレイヤー)
メーカーにより様々な商品や呼び方がありますが、一般的には、肌に直接触れるウェアはアンダーウェア(例えば下着のパンツなど)。レイヤリングとしては一番内側に位置するウェアです。いわゆるアンダーウェアのほかに、肌に直接着るウェアの層をベースレイヤーと呼ぶこともあります。
体温を一定に保つために身体がかく汗に最初に対応するのはアンダーウェアやベースレイヤーの大きな役割の一つ。
いかに発汗に対応できるかが重要なポイントになります。
普段着として木綿(コットン)のアンダーウェアを着用する方は多いかと思いますが、汗をかいた後に寒い思いをしたことはありませんか?
そう!汗冷えです。
吸湿性には全く問題の無いコットンですが、登山などのアウトドアアクティビティ用のアンダーウェアとしては大変な弱点があるのです。
それは、水分の拡散性が非常に低いために、一度湿ってしまうと乾きが遅いという点です。汗冷えを避けるという観点でみると最適な素材ではありません。
汗冷えは、肌にとどまった汗が冷やされたり蒸発する際に体温を奪っていくために起こります。
そのため、汗冷えの状態にあるアンダーウェアの上にいくら暖かいウェアや防風性のあるジャケットを着たとしても寒さは一向におさまらず、冬山など寒冷時の登山やバックカントリースキーなどのアクティビティに木綿(コットン)のアンダーウェアは全く適しません。
低体温症などのリスクが高まる上、過去の冬山遭難の事例でも生死を分ける要因の一つとされています。
木綿(コットン)のアンダーウェアは寒冷時の登山やバックカントリースキーなどでは絶対に着用しないようにしましょう。
メーカーによっては、「ドライレイヤー」という概念で売り出している商品もあります。
こちらはファイントラックの「パワーメッシュブラタンクトップ」
汗冷え対策に重点が置かれていて、この上に着ているウェアがずぶ濡れになったとしても、撥水性を持った生地のおかげで肌が濡れ続けることを防止する商品です。
登山などのアウトドアアクティビティにおけるアンダーウェアの素材としては、
昔からある化学素材として、ポリプロピレンやポリエステル、ダクロン、ジオラインなどに代表される、吸水性がほとんど無く速乾性が高いために冷感の少ない素材が挙げられます。アンダーウェアに最適です。
自然素材としては、ウールを挙げることができます。ウールは前述の化学繊維よりは速乾性は劣りますが、保温性は高いのでより暖かく感じます。アンダーウェアに最適です。
また、先ほどおすすめしない素材として紹介した木綿(コットン)や、レーヨンは吸水性は高いものの速乾性が低く、濡れた場合に保温性が大きく低下する素材です。登山のアンダーウェアには適しません。
おすすめの生地素材はウールです。自然素材の良さがあるだけでなく、ウールは若干の撥水性があるため濡れに強く、濡れたりして湿気を吸っても吸着熱が発生しある程度の保温力を維持するため、冷たく感じにくいという特徴があります。
やや価格が高いのと、縮みやすい、汗と摩擦によってフエルト化してしまうのが難点ですが、汗冷えを感じにくくさせる素材として優秀なだけでなく、防臭性に優れ、最近では防縮加工された製品も登場しています。
特に、高品質な羊毛を利用したメリノウールは肌触りが良く、近年改めて評価されています。春期から夏期向けの薄手生地もあり、年間を通して利用できます。
その一方で、化学素材は耐久性に優れているという大きな特徴があります。防臭性についても、現在では抗菌加工を施すことで対策された製品が多くなりました。
各メーカー、ブランドから様々な特徴を備えた製品がラインナップされていますので、ウールとの使い分けもおすすめです。
発熱素材はどうなの?
比較的新しい素材としては、繊維自体が発熱する発熱素材を利用した製品があります。
各社からいろいろなものが発売されていますが、それぞれ生地のベースが異なり、中には速乾性の低い製品もあります。
どれも保温性は高いのですが、そもそも想定されている用途が違いますので、それらの素材を検討する時は注意しましょう。
ブレスサーモなどのアウトドア用発熱製品は、寒冷下での写真撮影や自然観察、キャンプなど、待機時間が多く行動が少ないアウトドアシーンでは大いに生かせる素材ですが、発汗を伴うような激しいアクティビティには向きません。
一般登山やスノートレッキングなどでは使い方が難しいかもしれませんね。
ミッドレイヤーの項目でも後述しますが、登山など行動的なアクティビティでは暖かくなりすぎることでのデメリットが発生します。この事も念頭においておいた方がいいでしょう。
アンダーウェアの保温力については、生地の厚みを変えることでも調節できます。「ライトウェイト」「ミドルウェイト」「ヘビーウェイト」などと表記されることが多く、ライトからヘビーになるにつれ、生地の厚みが増し保温力が高まります。これもアンダーウェアを選ぶ際のチェック項目の一つです。
最近では、自然素材と化学繊維を組み合わせたハイブリッド繊維も登場しています。
例えば、ウールと化学繊維を組み合わせることで、ウールの保温性と化学繊維の速乾性という両方のメリットを備えた製品などがそれにあたります。
自然素材、化学繊維、ハイブリッド素材と、アクティビティの種類や季節、着用時の肌触りの好みなどによって、幅広い選択肢からアンダーウェアを選ぶことができる現在、レイヤードシステムの中でもひときわ重要と言っても過言ではないアンダーウェアには自分の好みも考えて、ストレスの無い、より良い一着を利用するよう心がけましょう。
ミッドレイヤー
次に、レイヤリングの中間層(中間着)となるミッドレイヤーが担当するのは、暖かく乾いた空気をまとうこと。
基本的には保温性はミッドレイヤーで調整します。
ミッドレイヤーに適したものとしては、ウールやフリース素材などがあります。
寒暖の体感具合に応じてこれらの組み合わせを変えることで、空気層(デッドエアー)の厚さと暖かい空気の流動性を変えて、保温力を調整することが重要になります。
そして、ミッドレイヤーの組み合わせを考える際にも発汗を意識してウェアを選ぶことを忘れないようにしましょう。
注意点としては、行動中と、休憩時など身体を動かしていない時では発汗量が違うために、休憩時の保温には有効なフリースやダウン素材も行動中には暖かすぎて汗をかいたり、通気性が低すぎる状態だと汗で結露することもありますので、多少面倒に感じても運動量に応じてこまめに脱ぎ着するなどの点に注意が必要です。
寒冷時といっても着込みすぎるのは良くありません。
発汗量は男性と女性でも違いますし、個人差もありますので、自分にとっての最適な組み合わせは体験、体感的に割り出しておき、様々な状況を想定しておくことも大切です。